質感のつどい

イベント
ホーム>イベント>第4回公開フォーラム 基調講演・招待講演の詳細

第4回公開フォーラム 基調講演・招待講演の詳細

特別講演

平諭一郎 先生
東京藝術大学 特任准教授
質感(美術用語)―模倣と学習と訓練

抄録:

①デッサンと質感(模倣と学習)
美術を専門とする者、また美術系大学や専門学校を目指す者にとって「質感」は日常的に聞き慣れた単語である。美術の基礎学習として取り組むデッサンでは、木や金属、ガラスなど、モチーフと呼ばれる対象の質感を描き分ける。また、対象の形や量感、置かれている空間を表現(説明)するために、光が対象に当たって明るくなっている箇所や陰の部分、また稜線や床との接地面など、木炭や鉛筆を用いて様々な質感を使い分け対象を描いていく。美術教育を受けた者は、質感の表現方法や審美性を共通認識として持ち合わせるが、長嶋茂雄的な定性的判断に頼っているため、なかなか言語化や数値化が難しい。どのように描けば質感を表現することができ、どのような対象が質感表現や再現に向いているのか。を余すこと無く伝えることができれば、質感の認識や解析の分野に微力ながら貢献できるかもしれない。
②共同制作と表現(模倣と訓練)
所属する東京藝術大学Arts & Science LAB.(産学連携拠点・COI)では、文化財の複製/再現/復元研究を行っているが、それらは1000年以上前から行われてきた仕事の延長線上にある。すべて手作業で復元品を制作することもあれば、デジタルスキャナやCT、三次元データや3Dプリンタを用いて、手作業と融合させ制作することもある。また、制作の監修のみを担うケースもあるが、それらを含めすべて複数人のチームで作業を行っている。複数の作業者で制作するには、審美性だけでなく、形や色、質感の同一性(オリジナルと近似しているかどうか)の共通認識が必要であり、美術制作と保存修復、デジタル機器操作のどれもが必要とされるスキルである。共同作業ではなく共同制作における訓練と指標について、文化財の復元研究を例に考えてみたい。

ご略歴:

1982年福岡市生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒、同学大学院文化財保存学専攻修了。広告会社に勤務後、東京藝術大学大学院の非常勤講師、教育研究助手、アートイノベーションセンター特任講師などを経て、2017年より同学Arts & Science LAB.(産学連携拠点・COI)特任准教授。現在は文化共有研究のグループリーダーとして文化財の複製と復元に携わると共に、メディア・アートをはじめとする芸術の保存・修復研究に従事。
現在開催中の文化財と芸術の保存・修復をテーマとした展覧会「芸術(アート)の保存・修復 -未来への遺産」(2018年10月2日〜10月18日、東京藝術大学大学美術館)を企画・監修。

招待講演

仲谷 正史 先生
慶應義塾大学
3D プリンタ技術を利用した触感研究の動向

抄録:

現在の3Dプリンタ技術は、高い空間解像度で任意形状の物体を成型可能にした。一方、物体がもたらす触感については研究フロンティアが残されている。その理由は、物体が持つ物理特性がヒトの体験する触感にどう貢献するかのサイエンスが明らかでないからである。本稿は3Dプリンタ技術と触感生成の関係について俯瞰し、両研究分野の展望を述べる。

ご略歴:

慶應義塾大学 環境情報学部 准教授。2008年に東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。同年、民間企業において触感評価技術の開発に従事。2012年4月より、日本学術振興会・特別研究員(SPD)として慶應義塾大学大学院 システムデザインマネジメント研究科・訪問研究員。2012年8月より、共同研究先であるColumbia University Medical CenterにてPostdoctoral Research Fellow。2016年12月よりJSTさきがけ研究者(領域:社会と調和した情報基盤技術の構築)。2017年4月より現職。
Fishbone Tactile Illusionを心理学・工学の観点から評価した研究を発展させ、メルケル細胞の生理学研究に従事。教務・学務の傍ら、2007年に立ち上げたTECHTILEの活動を通じ、触れることを起点とする価値づくりやその社会展開・普及に携わる。共著書として『触楽入門』(朝日出版社)、『触感をつくる――《テクタイル》という考え方』(岩波科学ライブラリー)を執筆する。
研究室HP: https://touchlab.sfc.keio.ac.jp/
個人HP: https://www.merkel.jp/

南本敬史 先生
量子科学技術研究開発機構・放射線医学総合研究所
感性的質感認知のしくみをサル脳科学の先端技術で探る

抄録:

私たちは感覚情報を知覚するとともに,「美しい」「すばらしい」と感じたり,「快い」などといった情動反応が引き起こされます.多様で複雑な現実世界から,私たちは何を感じ取って特定の感情や情動を引き起こしているのか?この質感認知の感性的な側面,すなわち「感性的質感認知」の原理を理解できれば,環境をより豊かになるようにデザインすることが可能となり,日常をさらに心地よいものに導けるかもしれません.私たちの研究グループは,その原理を脳の仕組みとして理解すべく,ヒトと脳構造が近いサルをモデルとした脳科学のアプローチから感性的質感認知の理解に挑んでいます.特に,視覚や聴覚刺激に基づいて価値を判断する・恐怖や不安などの情動行動に結びつくという側面について,辺縁系の神経回路を特定し感覚系との相互作用に着目して研究を進めています.本講演では,私たちが近年取り組んでいる遺伝子導入とイメージングの融合による特定神経回路を操作する技術について紹介するとともに,感性的質感認知の理解にどのように生かされるかの展望についてもお話ししたいと思います.

ご略歴:

1996年大阪大学基礎工学部生物工学科卒.2001年同大学基礎工学研究科博士課程修了.博士(理学).京都府立大学,米国国立衛生研究所(NIH)でのポスドクを経て,2008年放射線医学総合研究所主任研究員,2011年よりチームリーダー.2016年の組織改変により現職.サルを用いた情動や意思決定などの脳機能の解明とイメージング技術開発研究に従事.

日浦 慎作 先生
広島市立大学

質感にまつわる光学現象の記録と再現

抄録:

視覚的質感は光を介して知覚されるものであるから,その光の分布を完全に記録し再現することで,実物と寸分違わない質感が知覚されるという考え方がある.しかし実際には計測時間やデータ量の膨大さ,記録・再現デバイスの性能の限界等によってこれは現実的でない.また,質感に関する多様な応用,例えば品質管理や評価,流通などの実用に供するには高コストに過ぎる.そこで本講演では,質感の記録と再現,定量化などを理想と現実の両側面から論じ,実用的で過不足ない質感の記録と再現について考える機会としたい.

ご略歴:

993年大阪大学基礎工学部制御工学科飛び級中退,1997年同大大学院博士課程短期修了.同年京都大学リサーチアソシエイト,1999年大阪大学大学院基礎工学研究科助手,2003年同助教授.2010年広島市立大学大学院情報科学研究科教授.2008-2009年マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員准教授.三次元空間の画像計測と反射現象・表面質感の解析,コンピュテーショナルフォトグラフィ等の研究に従事. 2000年画像センシングシンポジウム優秀論文賞,2010年情報処理学会山下記念研究賞,2012年MIRU優秀論文賞等受賞.電子情報通信学会,情報処理学会,日本バーチャルリアリティ学会各会員.博士(工学).

ページトップへ戻る