質感のつどい

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第2回公開フォーラム 基調講演・招待講演の詳細

基調講演

富永昌治 氏(千葉大学):画像情報に基づく物体の質感解析

ご略歴:

1970年大阪大学基礎工学部電気工学科卒.1975 同大学院博士課後期課程程了.工学博士.電総研研究員,大阪電気通信大学教授を経て,2007年千葉大学大学院融合科学研究科教授,2011年同研究科長.現在,同研究科特任研究員.ディジタルカラーイメージング,分光イメージング,質感の見え解析などの研究に従事.IEEE,IS&T,SPIE,OSAおよび電子情報通信学会のフェロー.日本色彩学会元会長.

抄録:

 日常,われわれは多様な質感の知覚を通して現実世界を実感している.われわれは生存に必要不可欠な質感の情報を得るとともに,その物体を評価して価値を決めている.
 例えば,伝統工芸の漆器には非常に高価なものがあるが,魅力はどこにあるのか.その質感を合成樹脂(プラスチック)といった他の素材で実現できないのであろうか.下図は日常使う3つの物体の画像を示すが,どれが本物の漆器で,どれが漆以外であるか判別は容易でない.現実に物体を見ても,本物と贋物を見た目で区別できないものが多い.
 それでは画像(あるいは視覚情報)から質感を評価して,材質判定がどこまで可能であろうか?そのために,どのような物理量の計測が必要か,特別なセンシングデバイスが必要か,どのような特徴を抽出すればよいか,質感をどのように記述するのか,質感をどのように再現するのか,といった種々の問題が提起される.
 ここでは画像に基づく物体の質感計測・表現・解析・生成の総合研究に向かう一助として,下記の4つ実例を挙げて要点を述べる.

1. 色名を用いた質感や見えの表現
2. 絵画の質感計測と映像再現
3. 偏光画像による材質識別
4. 蛍光物体の見え解析と再現

講演資料:Shitsukan_forum2016_Tominaga.pdf

招待講演

五十嵐崇訓 氏(花王):コスメティクスへの応用を目的とした肌の質感制御

ご略歴:

1996年 早稲田大学理工学部応用化学科卒
1998年 早稲田大学大学院理工学研究科応用化学専攻修了
同年   花王株式会社入社(化粧品研究所)
2003年~2004年 Department of Computer Science, Columbia University 客員研究員
2015年 立命館大学大学院情報理工学研究科博士後期課程修了
現在   花王株式会社 製品開発第一セクター スキンケア研究所 主任研究員
スキンビューティ関連製品の性能評価、これらの設計・開発、及び素肌・化粧肌の状態評価に関する研究に従事、工学博士

抄録:

 人間にとって肌は最も身近な認知対象の一つである.それゆえ,我々は肌のアピアランス(外観)の状態を鋭敏に把握することができ,また,その状態に強い関心を持っている.例えば,我々は,肌のアピアランスを通して,およその年齢,健康状態,心理状態等をある程度予測することができる.また,肌のアピアランスを意識的に演出することで,なりたい自分を装うこともある.このように,肌のアピアランスは,我々の社会生活における不可欠なキューとしての役割を担っている.
 肌のアピアランスの特徴に影響を与えるいくつかの因子の中でも,質感は最も重要な研究対象の一つである.そのため,複数の研究分野(例えばコンピュータグラフィックス・コンピュータビジョン,メディカル,コスメティクスなど)において,肌の質感が重要な研究テーマとして取り上げられている.この中で,コスメティクス分野では,製剤の設計・開発,製剤性能の効果・効能検証,さらには,肌状態評価といった応用を目的にして,肌の質感研究が盛んに行われている.特に,製剤の設計・開発を目的とした質感研究は,実物の肌に作用しその肌の質感を好ましい状態に制御することが求められる.このような実物質感の制御技術を具現化するため,光学・色彩・画像をベースにした評価技術,肌の生理解剖学的な知見,界面科学等をベースにした材の構造制御技術などを融合した,コスメティクス分野特有の研究が展開されている.
 本発表では,このようなコスメティクスに特徴的な質感研究の紹介を目的として,製剤の設計・開発における研究の一端を事例も交えて概観する.この際,特に,コスメティクスの中でも質感制御に関する研究が比較的盛んなファンデーション(代表的なベースメイクアップ製品)の設計・開発における取り組みを主に取り上げる.具体的には,以下の内容について紹介する.まず,ファンデーションによる質感制御を考える上で不可欠な知見である,ファンデーションの成分組成の特徴を示す.次に,この組成特徴に由来して,ファンデーションを塗布した肌(化粧肌)と素肌の質感に差異が生じること,組成特徴を調整することで化粧肌に様々な質感を演出できる可能性があることを,光学及び画像的な観点から示す.以上の知見を踏まえて,最後に,質感制御を目的としたファンデーションの技術開発例を紹介する.ここでは,例えば,素肌感や透明感の演出に関する試みや,光沢感の特徴制御に関する試みなどを取り上げる予定である.

和田有史 氏(農研機構):食と質感

ご略歴:

現職:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構食品研究部門食品健康機能研究領域感覚機能解析ユニット上級研究員
2002年日本大学大学院博士後期課程修了.博士(心理学).日本大学助手等を経て2008年より(独)農研機構 食品総合研究所主任研究員.2016年4月より現職.食に関する心理学的研究に従事.

抄録:

食は質感の坩堝だ.味覚・嗅覚のみならず,皮膚感覚・視覚・聴覚・内臓感覚など様々な感覚情報に食品の印象は左右される.また,同じ食品であっても全ての人間がいつも同じように味を感じ,おいしいと感じるわけではない.人それぞれで食品には好き嫌いがあるし,普段はおいしく食べられるものでも体調が悪ければ受けつけないこともある."おいしい"というのは食品の評価に用いられる形容詞であるが,上記のように考えるとおいしさは実は食品の属性という側面だけではなく,食品と人の心の間に生まれる感情としてもとらえた方がその実態をとらえやすいかもしれない.質感研究の物と心の両者を包括的にとらえるアプローチは,おいしさの科学的な研究の中核をなしうると信じている.食の質感を科学的に理解するためには,以下のように整理するとよいと思う.もちろん,それぞれの要因は複雑にリンクし,オーバーラップしている.
1. 物理的質感知覚
 ・個々の感覚における質感(味質・匂いのカテゴリ・視覚的質感・テクスチャ)
 ・多感覚統合によって生まれる質感(フレーバー・物性)
2. 感性的質感認知
 ・生得的な嗜好と嫌悪
 ・学習による嗜好と嫌悪
 ・個人差(習慣・文化・遺伝・知識)
ところで,食に係る用語(例えば,味覚・うま味など)は,日常的に使っている言葉でも,学術的な定義と日常用語としての意味はかなり異なることが多く,それが味嗅覚の科学的な理解を難しくしている印象がある.本講演では,講演者の研究も踏まえながら,基本的な味嗅覚とその統合に係る知見や視覚研究などを紹介し,食の質感の多様さ,おもしろさを感じてもらいたい.

講演資料:Shitsukan_forum2016_wada.pdf

柳井啓司 氏(電気通信大学):深層学習による質感画像の認識・変換

ご略歴:

1995年 東京大学工学部計数工学科卒業. 1997年 東京大学大学院情報工学専攻修士課程修了. 1997年 電気通信大学情報工学科助手. 2003年~2004年 文部科学省在外研究員として米国アリゾナ大学に滞在. 2006年 電気通信大学情報工学科准教授. 2015年 電気通信大学総合情報学専攻教授. 博士(工学).一般物体認識,映像認識,マルチメディアデータマイニング,ディープラーニング などの研究を行っている.

抄録:

 近年,深層学習(ディープラーニング)による画像認識手法の登場によって, コンピュータによる画像認識能力が飛躍的に向上している.深層学習に よる画像認識手法は,画像の質感の認識においても有効であり,従来 手法に比べて高い性能を示している.
 本講演では,深層学習による最近の質感画像認識の研究について 我々の取り組みも含めて解説し,さらに深層学習を用いた質感変換の 研究についても紹介する.
 我々のグループの研究としては,畳み込みネットワーク(Convolutional Neural Network, CNN)を利用した質感画像に関する研究を3つ紹介する. 質感画像の弱教師領域分割,その結果とNeural Style Transfer手法を 用いた部分的な質感の変更,複数のstyleの融合と指定した部分のみ の質感変更を可能とするためのNeural Style Transferの拡張について紹介する.

講演資料:Shitsukan_forum2016_Yanai.pdf

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